クラシック音楽館をいくつか撮りためていて、そろそろ消さなければならないので、内容を記録するとともに、感想なども残しておこうかと思います。
クラシック音楽館で好きなのは、リハーサル風景やそのときの指揮者の指示などに触れられたり、指揮者や奏者のインタビューなどが聞けることです。
それもちょっと残せたらなぁと思っています。
N響演奏会 指揮:井上道義
NHK交響楽団 12月公演 NHKホール
ショスタコーヴィチ:交響曲第1番 へ短調 作品10
伊福部昭:ピアノと管弦楽のための「リトニカ・オスティナータ」
伊福部昭:日本狂詩曲
指揮:井上道義
管弦楽:NHK交響楽団
ピアノ:松田華音
2020年12月5日(土) 会場:NHKホール
指揮者の井上道義はミラノスカラ座主催の指揮者コンクールで優勝。以後世界の主要オーケストラと共演を重ね、国内オーケストラの主要なポストを勤めてきました。
N響とは1978年に初共演をし、これまでに海外でのコンサートを含む65公演(2021年3月時点)指揮してきました。
1曲目は井上氏が特別な思いを抱くショスタコーヴィチ。2019年の名演は記憶に新しく、その年の『最も心に残ったN響コンサート2019』第1位に選ばれています。(2019年第1921回定期公演 ショスタコーヴィチ交響曲第11番「1905年」)
井上氏 インタビュー
僕はショスタコーヴィチを随分愛しちゃって、自分のものにしたいという欲望が強くて、それをこのショスタコーヴィチというソ連時代の無法者の心を隠し、自分のやりたいことをどうやってすべて書き込んだのかということが知りたくて、ずっとやったわけですね
井上氏が「無法者」を呼ぶショスタコーヴィチ。彼が生きたのは社会主義体制下のソ連でした。体制を賛美し人々を教育する芸術がもとめられ、自由な創作活動は困難な時代でした。
ショスタコーヴィチは表面的には体制に従いながらも、自分の本当に表現したいことをそれをわからないように忍ばせ、作品を生み出していきます。
交響曲第1番は19歳のショスタコーヴィチがレニングラード音楽院の卒業作品として書いたもの。初演は成功しソ連が生んだ天才と絶賛され、作曲家としての輝かしい第一歩を踏み出しました。
この人の一回目の曲にはそれ(無法者)が隠れている。ティンパニがね、(歌う)叩くんだね。
あれは彼そのものでね。全部ぶちこわしてやるよと。この若い時の作曲家のものに、じじいとしては、やれば、吸血鬼のように僕も若くなるんじゃないかというつもりでやりました。
感想
ショスタコーヴィチ:交響曲第1番 へ短調 作品10
ショスタコといえば5番が有名で、1番はあまり聞いたことがないなと思いました。井上氏の解説を聞いていると、どんな曲なのかどういう風に無法者が隠れているのかわくわくします。
19歳でこの曲。ショスタコーヴィチって天才だなぁと思ったり、第5番だけでなくて他のもちゃんと聞いてみたいと思いました。
井上さんの指揮は、踊るような美しさがあり、でも気品だけではなくドラマティックでちょっと泥臭い感じもするけど、どこまでも優雅さを忘れないというような、見ててわくわくする指揮で、俳優というか演じておられるのかなと思ってしまいます。そして、立ち振る舞いがめちゃくちゃカッコイイんだよなぁ。姿勢がいいからかな。足をドンっと踏み出すとかでもとてもカッコイイ。
2024年で引退を決めておられるので、ずっと知ってた人なのに、結局一度も生では聞きにいかなかったなぁ……と、ちょっと後悔するんですよね……。
後半は伊福部昭のピアノと管弦楽のための「リトミカ・オスティナータ」。そして、「日本狂詩曲」です。1914年北海道に生まれた伊福部昭。幼いころはアイヌの集落の近くに住んでいました。彼らと交流しアイヌの歌を聞いたことが伊福部の人生に影響を与えます。
伊福部昭氏 インタビュー
歌でこういう感動を与えられるものなのかなと、全身震えるような感動
アイヌの音楽それは日々の生活のなかで生まれてくるものです。
彼らはその即興をやるわけです。何かがあると旋律を新たに作ったり、律動を作ったりする、それを外部に出すのがすごく自然なんですよね。曲を書こうかという気になったのは、やっぱり彼らの影響だったと思います。
音楽に惹かれた伊福部少年はむさぼるようにレコードを聴きました。しかしクラシックの王道であるベートーベンやブラームスは、伊福部にとって他人行儀にも感じました。幼いころ震えるような感動と出会った音楽とは違うように思えたのです。
そんなときに出会ったストラヴィンスキーの「春の祭典」。ロシアの大事に根差した独特なリズム、斬新なハーモニー、唯一無二の曲と出会って伊福部は心を決めます。
これが音楽だったら俺も書けるという感じになって。書けるというか、書いてみようということになって。それでちょっとやってみたら、いろいろと楽器もたくさんあるし、難しい規則があるんですね。そうこうしようとするうちに、日本には本がないんですよ、勉強しようと思っても。東京にも音楽学校にも作曲科なんてものはなかったですからね。やはり向こうの本を取り寄せて読むしか方法はない。
独学で大規模な管弦楽の作曲を始めました。
ストラヴィンスキーが書けば、こういう音楽、ベートーベンが書けば…。民族が違うんだから音楽もこんなに違う。もし自分がやるとすれば日本の伝統を意識した作品でなければ意味がないのではないかと感じました。
西洋音楽の模倣ではない独自の音楽を気づいた伊福部氏。その魅力が発揮された作品がピアノと管弦楽のための「リトニカ・オスティナータ」です。
ピアノは松田華音。現在(2021年3月当時)モスクワ音楽院の大学院に在籍し、伊福部昭を研究しています。
Q伊福部昭の魅力は?
(松田さん)やっぱり伊福部ワールドですかね。伊福部さんにしかない響き、世界、楽器の使い方。本当にもっと世界中の方に伊福部さんのことを知ってもらいたいと思います。
「リトミカ・オスティナータ」とは執拗に繰り返される律動という意味。同じリズムが繰り返され、力強く展開されていく伊福部音楽の真骨頂です。
(松田さん)でもきれいなメロディもあるなと私的には思うんですけど。もちろんピアノは(この曲では)打楽器的な音が理想なのですけど、打楽器とかこういう楽器とかいう枠を超えて、エネルギーの塊として聞いてもらえたら嬉しいなと。そういう風に聞こえたらいいなと思って演奏しました。
「日本狂詩曲」。日本の有望な新人を発掘するために、作曲家のアレクサンドル・チェレプニンが開催したコンクール(1935年)で一位となった曲です。無名の伊福部が日本に先駆けて世界で認められるようになった曲です。
日本狂詩曲のオーケストラはハープ2台を含めた三管編成という当時としては大規模なものでした。伊福部は大学の管弦楽部でコンサートマスターを務めていましたが、実はハープやチューバの実物を見たことはなく、レコードの音と譜面から楽器を想像することで曲を完成させたといいます。
井上氏 インタビュー
21歳。福部さんが。自分で作曲を学んだ人の曲。希望を持てるよね。都会で学校で勉強しなくても音楽できんだよ。伊福部昭さんって東京音楽大学の学長にまでなった人なんだけど、そのころはね(「日本狂詩曲」を作曲したころ)蝶ネクタイなんてしてなかったんですよ。
日本狂詩曲の終盤。スコアには「野蛮」「燃え上がるように」といった指示が書き込まれています。祭りの最高潮で解き放たれる民衆の圧倒的エネルギー。非日常の高揚感と騒がしさを演奏者に求めたのです。
心の中の羽目を外す方法というのは、クラシック音楽の中に山盛りあるんだよ。これが面白くて僕はやってるんだけど。楽員さんのみんなそれぞれめちゃくちゃ羽目を外したいんだけど、その羽目を外す方法も学ばなきゃならないというジレンマ。そこを泥臭くやるっていうのが一番難しかったな。実はそれ難しいことなんですよ。
それで蝶ネクタイでない伊福部さんを出したかったんだね。
感想
伊福部昭:ピアノと管弦楽のための「リトニカ・オスティナータ」
もう冒頭からかっちょよくて鳥肌が立ちました。なんか、繰り返しの曲って、つまらないという思い込みがあるんですけど、そんなことはまったくありませんでした。
やっぱりなんか、自分の中にある日本的要素が求めてる響きというか……。確かに松田さんがおっしゃるように美しい要素がたくさんありました。
なんか「ラスト・エンペラー」を思い起こすし、「風ノ旅ビト」の音楽(オースティン・ウィントリー)をふと思い出したり……。
音楽のどういったところが、こんなに心に作用するのか、科学的に知りたい気もします。
もうすこし、各所ばっちりあってたら、立ち直れないぐらい、どすーんと来た気もするし、でもコンピューターでばっちりあっても絶対にこの心への揺さぶりは、なされないことだから、音楽って本当に一つとして同じ演奏にならないんだろうなと思うし、それが価値の一つなんだろうな。
伊福部昭:日本狂詩曲
やっぱりこういうの好きだなぁ。もっと派手な感じかと思ったけど、日本の祭りの神聖さも、泥臭さも、残っているような感じがしました。日本人が置いていこうとしているものがある気がします。音楽で留められないかなぁというような気持ちにもなりました。
N響以外の、いろんな楽団の「日本狂詩曲」を聞いてみたいです。打楽器の丸太みたいな楽器はなんだろう。丸太かな。
しかし、「すぎやまこういち」さんのときもだけど、ストラヴィンスキーっていろんな人に影響を与えていて、それがすべて私のツボなのだから、もっとストラヴィンスキーも聞けばいいんだよね……。
ああ、もうこの録画も保存版だなぁ。消そうと思って聞いたけど、こんな名演消せないよ…。
個人的に確認した奏者
コンマス 篠崎史紀
ヴァイオリン 森田昌弘
チェロ 藤森亮一
フルート 甲斐雅之
ファゴット 宇賀神広宣
クラリネット 伊藤 圭
ホルン 今井仁志/勝俣 泰/木川博史/女性(野見山さんではないような……)
トランペット 菊本和昭
チューバ 池田幸広
コンサートα
伊福部昭:ピアノ組曲
ピアノ:岡田将
2006年12月12日 東京オペラシティ リサイタルホール
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