クラシック音楽館をいくつか撮りためていて、そろそろ消さなければならないので、内容を記録するとともに、感想なども残しておこうかと思います。
クラシック音楽館で好きなのは、リハーサル風景やそのときの指揮者の指示などに触れられたり、指揮者や奏者のインタビューなどが聞けることです。
それもちょっと残せたらなぁと思っています。
番組前半の内容
第1930回 定期公演 Aプログラム
マーラー:交響曲第2番ハ長調「復活」
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
ソプラノ:マリソル・モンタルヴォ
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:NHK交響楽団
2020年1月11日(土) 会場:NHKホール
2020年80歳になったマエストロ クリストフ・エッシェンバッハ
3年ぶりにNHK交響楽団の指揮台に立ちました。
マーラー:交響曲第2番ハ長調「復活」
エッシェンバッハ氏のインタビューより
そもそもこの作品が大好き
この20年間でマーラーのほとんどすべての交響曲を指揮した。
なかでも第2番「復活」は素晴らしい歌がある特別な曲
交響曲第2番はマーラーが指揮者として多忙だった時期に足掛け7年をかけて完成した曲。
演奏時間は90分近くになる大作です。
すべての楽章に効果的な意味がある。
第1楽章はドラマチック、第2楽章はオーストリアのレントラーが関係している
レントラーとは中世のころから南ドイツやオーストリアで庶民が親しんだ民族舞踊です。
マーラーは交響曲の中に好んでこの舞踊のメロディを取り入れました。
第3楽章は続く2つの楽章へ橋渡し、第4楽章は歌曲「原光」そのもので有名なアルトのソロがある
原光は同時期にマーラーが書いた歌曲で、神への信仰を歌ったもの。
そして迎える第5楽章。
マーラーは交響曲「復活」で死と再生という人間の根源的なテーマに挑んだのです。
この曲は人の一生を包み込んでくれる。
人生における、さまざまな問いへの答えだ。
本当にすばらしい歌詞と信じられないほど見事な作曲。
音楽と一言で表せない至高の芸術だと思う。
全ての人に困難を乗り越える助けとなる慰めを届けたい
リハーサル風景より
前日のリハーサルでもエッシェンバッハは第5楽章を入念に確認していました。
もう一度いいですか、マリソル。
Dichの前からもう1回。
ここはDich(おまえ)が重要。
Dichをもっと立てて
個人的に確認した奏者
コンマス 伊藤亮太郎
ヴァイオリン
チェロ 藤森亮一
オーボエ 池田昭子
フルート 神田寛明
クラリネット
ホルン 今井仁志/石山直城/木川博史/野見山和子/勝俣 泰(ちょっとお席が違った)
トランペット 長谷川智之
トロンボーン 吉川武典
感想
マーラー:交響曲第2番ハ長調「復活」
「のだめカンタービレ」に取り上げられてから、いろんな演奏で何度も聞いたのですけど、最初から最後まで集中して聞けた試しはありませんでした。
しかし、この演奏は本当に素晴らしかった!最後まで濃密な時間を過ごすことができました。
サウンドがピリッとしているというか。こう聞かせどころの強音がきっちりと心に迫り、心を叩き、音の行く先が気持ちがよく。優しいメロディは、音の震えが心を震わせるような。それをずっと追いたくなるし、身をゆだねたくなるような演奏だと思いました。
第4楽章のメゾ・ソプラノの深みと思慮深さにあふれた歌声に聞き入ってしまいました。
そして第5楽章。本当に素晴らしい。ソプラノの美しい歌声に心が押されて、涙が湧き出てきてしまいました。ホルン、ベルアップ!
クライマックスは本当に鳥肌ものでした。いいものを聞いた……。震えました。
保存版ですね。
番組後半
エッシェンバッハの音楽人生を振り返ります。
彼の音楽家人生のスタートはピアニストです。
20代前半にミュンヘン国際音楽コンクール2位、クララ・ハスキル国際ピアノコンクール優勝という好成績をおさめ、一躍注目されます。
バイオリニスト エリック・シューマンのインタビュー
エッシェンバッハは、まずはピアニスト。次に指揮者としての彼がいる。
ピアニスト ラン・ランのインタビュー
彼は両方ですね。ピアニストであり指揮者です。
ピアニストと指揮者たぐいまれなる才能を持ったエッシェンバッハ。その生い立ちとは。
1940年 ユダヤ人の家庭に生まれました。現在のポーランドブロツワフ、当時はドイツ領でした。
これは母。表情も顔立ちもきれいだ。
これは父。学生に何か説明しているのだろう。とても優秀な指揮者であり、合唱団のリーダーだった。
しかし、母親は彼を産んですぐに病気で亡くなってしまいます。さらに悲劇が襲います。当時のドイツはナチスを率いるヒトラーの独裁時代。第2次世界大戦の真っただ中でもあり、ユダヤ人だった父は懲罰として戦場に送られ戦死。エッシェンバッハは4歳で孤児となり難民キャンプへ送られたのです。
難民は氷のように寒いメクレンブルクの納屋に収容された。のちに100年に一度の寒さと言われた1945年から46年にかけての冬だった。60人いた難民のうち納屋の中で生き残ったのは私一人。ノミやシラミに食われ、病にも冒されていた。
窮地から救ってくれたのは亡くなった母の従妹でした。
彼女は健康になるよう看病してくれた。回復までにほぼ1年かかった。
歩くこと、話すことから学びなおさなければならなかった。私は失語症だった。
夜、隣の部屋で彼女が弾くピアノが聞こえた。彼女はピアニストでもあり歌手でもあった。
私は毎日その音楽を聴いた。音楽も私を健康にしてくれた。
言葉を取り戻せたし、歩けるようになった。とにかく勇気をくれた。
それからの7年間は蚊帳楽隊用のようにすてきな日々だった。
自らもピアノを学び、音楽家としての道を歩み始めたエッシェンバッハ。
さらにその後に人勢に決定的な影響を与える体験と出会います。
ベルリン・フィルとフルトヴェングラー。
養父母がコンサートに連れて行ってくれ、本当に魅了された。まずは音響のすばらしさ。確かベートーベンの夕べだった。フルトヴェングラーがひとりで百人の演奏家を鼓舞していた。まるで天使か悪魔のようだった。養父母は私が魅了されているのに気づき「おまえもやりたいのか?」と尋ねた。11歳だった。もちろん「イエス」と答えた。
ピアニストとして音楽の世界に足を踏み入れたエッシェンバッハ。しかし、成功した後もなお指揮者になる夢をあきらめていませんでした。
共演する指揮者をつぶさに観察し、独学で指揮を学び始めました。
リハーサルに同席してメモを取ることを7年間続けて指揮をやり始めた。ジョージ・セルのリハーサルが多かった。セルが遠くをみているときは、音色がこんな風に変化したとか、彼のアイディアが沸き上がるのを横でみていた。すてきな体験だった。
1966年に初共演した楽壇の帝王カラヤン。そのリハーサルにも間近で立ち会うことができました。
カラヤンとセルという偉大な指揮者。この二人は私の指導役だった。若い音楽家を自分のリハーサルに同席させ、聴かせてくれるなど当時はまったく考えられなかった。ところが二人は同席させてくれた。リハーサルで多くのことを学んだ。二人は対照的だった。私は二人の良いところを音楽の中で組み合わせることができた。セルは彫刻をデザインするかのように楽曲を見ていたし、カラヤンは画家のように色をつけた。
徐々に指揮をする機会を得るようになります。1979年に来日し日本フィルを指揮しました。当時39歳。1980年以降はチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、パリ管弦楽団、ワシントン・ナショナル交響楽団など世界の名だたるオーケストラのシェフを務めるようになります。
指揮者としてのキャリアを積み上げる一方、積極的に取り上げたのが若手を育成することでした。
これは毎年北海道で開かれているパシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌のリハーサル風景です。
世界中の若い音楽家の卵がおよそ一か月合宿し、一流の指揮者や演奏家と一緒にコンサートを作り上げていく音楽祭です。エッシェンバッハは1991年から2019年の間に9回参加し、多くの若手を育てました。
才能ある音楽家の発掘にも積極的でした。中国出身のピアニスト、ラン・ランもエッシェンバッハが見出した才能でした。
ラン・ランのインタビュー
エッシェンバッハは僕にとってもっとも重要な人物の一人。
僕が十代のころから才能を買ってくれていた。僕たちは魔法のような相性の良さがあり、それを本当に大切に思っている。彼のような人は他にはいない。若い音楽家にあれほど時間をかけ、思いやりをもって助けてくれる人は…
エッシェンバッハのインタビュー
私も若いころカラヤンとセルからとても重要なことを教わった。その経験を若い人たちに引き継がなければならない。私自身が受け継いだことを次の世代に伝える努力は惜しみません。
今も年間およそ90回の演奏会を行うエッシェンバッハ。世界中を旅する日々の中、心休まるのは自宅のあるパリ。部屋にある古い一台のピアノ。今も大切に弾いている。
このピアノは祖母が2番目の母(養母)に贈ったもの。ベヒシュタインで確か1894年製だと思う。現代の音程にあわせて調律することはもはやできない。4分の1トーン低い。でも、だからこそ本物の音が出る。私は好きだ。最初のピアノの授業もこのピアノ。2回の世界大戦を生き延び辛さを味わったピアノ。火事や洪水、いろんなことを味わったピアノ。なんとなく私の人生の味がするような…。
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90から第3楽章
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
管弦楽:NHK交響楽団
2017年10月20日 NHKホール
感想
曲名
エッシェンバッハさんがナチス時代に生き残られた方だとは。壮絶な人生と若手への愛情あふれる姿勢を尊敬します。ラン・ランさんとの共演は、実際の演奏会で聞くことができました。カラヤンとセルからエッシェンバッハさん、そして、ラン・ランさんへのつながりだったのだなと思いました。
ホルンに福川さん発見。
管楽器がターラッラターラッラと刻む音からの、弦の流れるようなメロディの入り方にゾクゾクする。
福川さんのホルンソロ耳福。
最後の全体の膨らみ方がものすごく美しい……。最高でした。
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