クラシック音楽館をいくつか撮りためていて、そろそろ消さなければならないので、内容を記録するとともに、感想なども残しておこうかと思います。
クラシック音楽館で好きなのは、リハーサル風景やそのときの指揮者の指示などに触れられたり、指揮者や奏者のインタビューなどが聞けることです。
それもちょっと残せたらなぁと思っています。
現役N響メンバーが語る 心に残るマエストロたち
2021年に創立95周年を迎えたNHK交響楽団。その歴史は日本のオーケストラの発展の歴史とも言えます。N響にはその時代を代表する世界的な指揮者が招かれました。そのマエストロたちの力を舞台上の一番近くにいた奏者たち。現役の楽員40人に取材して、巨匠たちの姿を語ってもらいました。(※楽員さんの肩書は、2021年当時のものです)
桂冠名誉指揮者 ウォルフガング・サヴァリッシュ(1923-2013)
ドイツのミュンヘン生まれ。歌劇場の伴奏奏者からバイエルン国立歌劇場の総監督まで昇りつめた20世紀を代表する指揮者の一人。劇場たたき上げのドイツ・クラシック音楽の伝統を背負ったマエストロです。
N響との関係は、1964年の初来日、1967年名誉指揮者就任、1997年桂冠名誉指揮者就任。300回以上指揮台に上りました。ドイツ音楽の神髄を伝え、世界レベルまで引き上げたN響の育ての親。
「ものすごい支配しているので」「王って感じ」「100人の奏者一人一人に首輪とヒモをつけて…」まるで楽員一人一人を紐でつないで引っ張っていくような圧倒的な統率力。意のままに動かし、理想の音楽を奏でていた。
(首席フルート奏者 神田氏)
思うがままにこちらが操られているという感じですね。こっちがどう思っていても、全部、紐を引っ張られて、行ってしまうようなそういう感じがしますね。もちろん嫌じゃないですよ。
(首席ティンパニ奏者 久保氏)
マエストロが振っているように自分が弾ていけば、弾かされちゃって。なんで自分はこんなに弾けるの?こんなに上手いの?みたいなところまで、引っ張り上げてもらえるという風に感じました。
サヴァリッシュ氏に対して絶対的な信頼と尊敬をもってるから出来ることです。
(チェロ奏者 山内氏)
サヴァリッシュ先生の音楽というのは、確固たるものがあってですね。そこの理想に私たちを近づけていく。そのためにどうしたらよいかということも、非常に的確に指示も下さいますしね。全く音楽の中で不明瞭な部分がないんです。演奏する側にとって
(第一ヴァイオリン奏者 森田氏)
とにかくバトンテクニックというか、体の動き方、使い方が本当にパーフェクト。先生が指揮していただくと、操られるように体が動く
(首席フルート奏者 神田氏)
もうそのタイミングで音を出さなきゃならないと、テンポにブレーキをかけなきゃならないような動作を指揮でなさるので、それに逆らうことなんてできないわけなんですね。
(サヴァリッシュ氏)
音楽は世界共通の芸術です。だれにでも理解できるところが、音楽の素晴らしいところです。N響のメンバーと私とは、国籍も教育も違いますが、共通の理解によって40年間結ばれてきました。そして本物の音楽を創り上げてきたのです。
サヴァリッシュ氏もN響を深く信頼してきました。指揮とは何か。
(サヴァリッシュ氏)
演奏する作品を自分の視点に基づき、音楽家たちから引き出すこと。それが指揮者に与えられた課題です。彼らに目の前の立っている人の考えに従い、それぞれの内にある体験を全員一丸となって聴衆に伝えるよう求めるのです。ともに演奏するということをはるかに超えてなにかに生命を与えるということなのです。紙に印刷された音符の中にあるなにかが生命を得て動き出すのです。
NHK交響楽団 第1472回定期演奏会
ブラームス:交響曲第3番から第4楽章
指揮:ウォルフガング・サヴァリッシュ
管弦楽:NHK交響楽団
2002年11月9日(土) 会場:NHKホール
感想
2002年の演奏だから、松崎氏おられるかなぁと思ったけど、おられなかった。残念。確かに、自分がN響アワーをよく見るようになって、よくサヴァリッシュ氏のお名前は聞いていたなぁと思います。NHK交響楽団がドイツ音楽が得意みたいなのを聴いてたのは、サヴァリッシュ氏の導きの賜物だったのですね。
指揮者と楽団の関係、数年かけて作り上げられる信頼関係、呼吸みたいなのは興味深いなと思います。
演奏の方は、最近のN響の演奏を聴いているのと比べて、ちょっと「固い」というような気がしました。今は、もう少しキラキラしていて、透き通っている気がします。当時の録音の機材とかの関係もあるのかもしれませんが……。
桂冠名誉指揮者 ヘルベルト・ブロムシュテット(1927-)
N響とほぼ同い年。N響とは1981年以来共演を重ねています。83歳でウィーンフィルと初共演。93歳でルツェルン音楽祭初出演。
「ここにいる団員の誰よりも若いんじゃないか」「どんどんどんどん更新されている」「どんどん進化していて、幸せそうなんですよね…」
進化が止まらないマエストロ。作品を読み込む深さや解釈する力が尋常でなく、共演するたびに驚きと感動に包まれるという楽員たち。マエストロに追いつきたくてもどんどん先に行ってしまう。
(首席トランペット奏者 菊本さん)
どこにそんなエネルギーがあるんでしょうか、そのお年でというのはいつも不思議。世界の七不思議のひとつにいれてもいいと僕は思っています。
(第1バイオリン奏者 横溝さん)
何年前、僕はこの曲を皆さんとやったけど、あのとき言ったことはすべて忘れてくれというぐらい。あのとき言ったこととはもう別のことを考えているから、今回はこういう音楽づくりをするんだっていう。音楽に対する探究心というのが、すごいことだなと思って。
(オーボエ奏者 池田さん)
数年前に新世界をやって。新世界なんてすごい回数やってらっしゃると思うんですけど、ちょっと質問しに行こうと思って、指揮者室に行ったら、15分休憩のときにスコアを読んでらしたんですね。まだ勉強しているんだと思って。休憩の時間にも。何かまだ新しいことがあるんじゃないかって、どんどん更新されているんだと思います。
すべては音楽のために。人生をかけて音楽を探求しつづけるマエストロ。その成果を毎年のようにN響を通して、私たちに届けてくれているんです。
(ブロムシュテット氏)
音楽は作曲家の人生を映す鏡です。我々はそれを通じ新たな経験をします。こちらに経験が乏しければ、満足な表現はできません。日々新たな経験がスコアに光を当てるのです。
NHK交響楽団 第1788回定期演奏会
モーツァルト:交響曲第40番から第1楽章
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
管弦楽:NHK交響楽団
2014年9月19日(金) 会場:NHKホール
感想
ブロムシュテット氏の幸せそうな指揮っぷりがとっても好きです。モーツァルトの曲の印象もあってか、とても幸せそうです。これで10年前かぁ…。なるべく長生きしていただきたい指揮者様です。コンマスは堀正文さん。オーボエに茂木さんがおられた。ホルンは今井さんのお姿を確認。
首席指揮者(2015-2022) 名誉指揮者(2022-) パーヴォ・ヤルヴィ(1962-)
エストニア生まれ。ドイツ・カンマーフィル芸術監督を長くつとめ、ベルリンフィルなど世界的オーケストラとも共演をしている指揮者です。
「安全運転をしない」「ちょっとスリル満点」
N響新たな舞台へと引き上げる、新時代のリーダーパーヴォ・ヤルヴィ。スリル満点、時に楽員たちも驚く刺激的な音楽づくりで、オーケストラから新しい響きを引き出すマエストロです。
(首席コントラバス奏者 吉田さん)
今までN響が目指してきた緻密な演奏、重厚な演奏ももちろん大事なんですけど、そうではない、とてもフレキシブルにアンサンブルをしながら前に進めていくという。安全運転をしない。一瞬ずれても、ずれたことはまぁそんな気にしないでください。みんなで自由に行ってください。それは今までN響にはなかった、音楽の攻め方。
(第1バイオリン奏者 猶井さん)
一緒に音楽を作ろうという気持ちが、パーヴォさんにはあって、このオケと一緒にできる音楽はなんだろうって、考えながらやっている感じがします。
(オーボエ奏者 池田さん)
そのときの即興性みたいなものも。じゃあ今そう来たならこうやってみたら?みたいなのをハッと振られたりする。こっちもわっと応えて、じゃあこうやっちゃえみたいな。わーっとエネルギッシュに渦巻くように音楽が推進していくというか。ちょっとスリル満点という。
本番の瞬間瞬間のインスピレーションを生かした、音楽の対話。その場で生まれるアイディアでどんどん音楽を変化させていくスタイルに楽員は新しさを感じたといいます。
パーヴォの登場によってN響は新時代を迎えたと言えます。
NHK交響楽団 第1802回定期演奏会
マーラー:交響曲第1番「巨人」から第2楽章
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
管弦楽:NHK交響楽団
2015年2月7日(土) 会場:NHKホール
感想
指揮者のスタイルってそんなに違うんだなぁって、楽員さんのインタビューがとっても興味深いです。
パーヴォ・ヤルヴィ氏の指揮する回は、私にとってはどれも好きで。N響って本当どんな演奏も卒ない美しいんですけど、パーヴォ・ヤルヴィ氏の指揮されるときはいつもよりもエネルギッシュさを感じる気がしてたんですけど、得意な曲や選ばれる曲がそういう感じのものだから気のせいじゃなかったんだなぁと思いました。
指揮者との対話ってなんかカッコイイですよね。スペシャルな奏者がそろっているから出来ることなんだろうと思いますけど、憧れます。
パーヴォ・ヤルヴィ氏とN響のマーラーは特に本当好きです。今回流れた演奏も、エネルギッシュとか鮮やかさとか感じて、素敵でした。
オーボエに茂木さん、ホルンに福川さん、トランペットに菊本さん。ヴァイオリンのコンマスの隣におられるロマンスグレーの方、いつも気になってるけど、お名前がわかんない。その方もいらっしゃいました。
エフゲーニ・スヴェトラーノフ(1928-2002)
ロシアの指揮者。1965年-2000年ロシア国立交響楽団首席指揮者。ロシアを感じさせる豊かな抒情性とけた外れのスケールが魅力。
N響の指揮台に立つために来日したのはわずか5回。その姿はいまなお音楽ファンはもちろん楽員にも深く刻まれています。
「直立不動みたいな」「どっしりと大きくいてくださって」「何もしないというのも変ないい方なんですけど…」
まさに威風堂々。そこにいるだけで楽員も体験したことのないようなとんでもない名演が生まれてしまうというのです。中にも語り草になっている演奏があります。
1997年9月6日チャイコフスキーの交響曲第5番。クライマックスで目をつぶり、指揮をやめたスヴェトラーノフに、N響は豊かでスケールの大きなフォルティッシモで応えました。
(チェロ奏者 山内さん)
直立不動みたいな感じで、立ってですね。手はもう両方降ろしたままなんですよ。そして、金管のところに目で眼光鋭く、眉でピクッと、こう指示をだす。その立っている様がロシアに行くとある銅像とダブって見えるというか。オーラが出ているといいますか。そこにいるだけでいいといいますか
まるで銅像、オーラで指揮、なんとも不思議な表現ですが、楽員たちは様々な情報やメッセージを受け取っていました。
(首席コントラバス奏者 吉田さん)
振らないということは、そこに信頼関係があるわけじゃないですか。そこは私は振らなくてもいいですよね。皆さんでやってくださいねという意思表示だから。当然それをみたら責任を感じますよね。当然いい音になりますよね。
楽員が指揮者から感じること。動きや表情という視覚的な情報を超えたところにこそあるのです。
(首席ティンパニ奏者 久保さん)
チャイコフスキー交響曲第4番の第1楽章はずっと3拍子なんですけど、本当にシンプルにずっと三角形を描いてらっしゃるんですが、その三角形が僕にとってはとても音楽的に見えたんです。この通りに弾いたらちゃんと音楽になるわと思いました。全身が音楽になっているんでしょうね、たぶん。単純に三角形を描いているだけで、そこから音楽がボワーっと。見えない音楽が放射されてて、僕らのほうに降り注いでいるという感じですね
NHK交響楽団 第1414回定期演奏会
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」から 第2幕のパ・ド・ドゥー
指揮:エフゲーニ・スヴェトラーノフ
管弦楽:NHK交響楽団
2000年10月7日(土) 会場:NHKホール
感想
直立不動で指揮したというエピソードだけは、聞いたことがありますが、この方のこの演奏のことだったんですね。それを体験した楽員さんのコメント、すごく興味深かったです。指揮しないことで指揮をするって究極の信頼関係で作り上げられた演奏。そのチャイ5の演奏、録画でちょっと流してもらえましたが、本当に素晴らしかったです。
バレエ音楽「くるみ割り人形」から 第2幕のパ・ド・ドゥー。最後の来日となった定期公演だそうです。マエストロの希望で異例のアンコールで演奏されたそうです。
なんて色彩豊かな演奏かと思いました。これがアンコールなんて、もう、大満足で響きを心に抱いて帰れるなぁという演奏だと思いました。
この記事で書いてた演奏と同じ演奏でした。『「ダンスは音色に魅せられて」ゲスト:パパイヤ鈴木』
ワレリー・ゲルギエフ(1953-)
ロシア、サンクトペテルブルクのマリンスキー劇場を世界的レベルまで育て上げたマエストロです。N響とは4度共演しましたが、定期公演はたったの一度きり。しかし、その個性あふれる指揮は楽員たちに衝撃を与えました。
「魔法ですね」「指先から煙が出るというような」「電波が送られてくるような」
ゲルギエフの指揮は唯一無二。独特なスタイルです。百戦錬磨の楽員に魔法と言わしめるゲルギエフのタクト。不規則に震える指先からどのような音楽が生まれているのでしょうか。
(第1バイオリン奏者 横溝さん)
映像でゲルギエフさんの指揮している姿を見られるとたぶん、なんでN響の人たちはこの指揮で合うんだろうと思う方がいらっしゃると思うんですけど、僕らも同じ気持ちで。魔法なので、僕らからしても
(ファゴット奏者 佐藤さん)
なんか一見点がないような感じで、集合する場所がわかりにくいように思えるんですけど、なぜか出てくる音楽が合うというか
(首席チェロ奏者)
指先から魔法が出てくるような糸が出るというか煙が出るというか、細かい表現が出てくるようなテクニック。棒さばきですね。
(首席ファゴット奏者 水谷さん)
右手と左手と揺れ方が違うんですが、合うときがあって、そこはきっと彼が音を出してほしい瞬間、小節の頭、拍の頭ということだと思うんですけど、何か電波が送られてくるような感じがしてまして、それがキャッチできるようになると苦しまずに演奏出来たかな(^^)
(オーボエ奏者 池田さん)
ゲルギエフさんの手の動きを見ていると、音がふーっと浮遊するような、リラックスした良い音色を導き出してくださるような。含みのある余韻の美しい音色みたいな。早いフレーズでも、せせこましい感じではなくて豊かな響きを持って運んでいくような感じがした覚えがあります。
NHK交響楽団 第1474回定期演奏会
チャイコフスキー:交響曲第3番「ポーランド」から第5楽章
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
管弦楽:NHK交響楽団
2002年11月20日(水) 会場:サントリーホール
感想
ゲルギエフさんがN響で振ったことあるんだ!というのにびっくりしましたが、回数を聞いてなるほどと思いました。その回数でこの番組に取り上げられるとは、よっぽど印象的だったんですね。
ワレリー・ゲルギエフさんというと、とっても熱い演奏のイメージがします。震えるタクトというのは初めて知ったけど、そういうのが引き出すんでしょうか。N響とはあまり相性がよくないイメージがします(笑)
あれ。ホルンに松崎さん!?
ピエール・ブーレーズ(1925-2016)
フランスの音楽家。ピエール・ブーレーズ。ブーレーズは20世紀現代音楽の発展に貢献した偉大な作曲家であり、世界で活躍する指揮者でもありました。N響との共演は1967年と1995年のわずか2回。共演の少なさにもかかわらず、指揮を経験した楽員は全員がその思い出を語っています。
「明晰な頭脳」「とにかくスマート」「完璧です」
古今東西の楽曲が頭にインプットされた並外れた記憶力。そして驚異の楽譜分析力をもったブーレーズ。音符に埋め尽くされた複雑な作品でも作曲家の意図したフレーズが浮かび上がり、見通しのよい音楽となるのです。
(首席チェロ奏者 藤森さん)
楽曲を分析する能力がものすごい高い。作曲家だとこの音は無くても大丈夫だとか判断しながらできるみたいで、ここを出せばうまく全体がまとまるとかそういうことがすべてわかってらっしゃった。
(トロンボーン奏者 吉川さん)
本当はそういう姿なんじゃないかとう、スコアの姿が明晰に浮かび上がって見えていったという印象で、あの人が示す指揮の図形に合わせて自然に音を出すと曲に対してどんどんふさわしいニュアンスが放たれていく。
ブーレーズ・フェスティバル
ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲
指揮:ピエール・ブーレーズ
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:晋友会合唱団
合唱指揮:関屋 晋
1995年5月30日(火) 会場:サントリーホール
感想
これまたブーレーズさんがN響で振ったことあるんだ!というのにびっくりしましたが、2回。知らないわけだ……。
1995年でもこんなにきれいな映像が残ってることに感心する。
やっば。好きかも。年代とかもあるけど、指揮者でこんなに音色が変わるんだなというのをすごく感心する。繊細で美しい。
もっとブーレーズ氏の指揮した曲を聞いてみたいと思った。ブーレーズ氏の説明を聞いていると、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ氏を思い出す。作曲家で指揮者は「音符に埋め尽くされた複雑な作品でも作曲家の意図したフレーズが浮かび上がり、見通しのよい音楽となる」という能力をお持ちなのかも。スクロヴァチェフスキ氏の指揮する音楽でも、そういう風に思ったことがあります。
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