クラシック音楽館をいくつか撮りためていて、そろそろ消さなければならないので、内容を記録するとともに、感想なども残しておこうかと思います。
クラシック音楽館で好きなのは、リハーサル風景やそのときの指揮者の指示などに触れられたり、指揮者や奏者のインタビューなどが聞けることです。
それもちょっと残せたらなぁと思っています。
N響演奏会
NHK交響楽団 第1944回定期演奏会
パガニーニ:バイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品6
(アンコール)パガニーニ:24の奇想曲から第13番
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64
指揮:ファビオ・ルイージ
管弦楽:NHK交響楽団
バイオリン:フランチェスカ・デゴ
2021年11月24日 (水) 会場:サントリーホール
説明
ファビオ・ルイージ氏 インタビュー
(プログラムについて)
N響のように偉大な伝統を継承するだけでなく、非常に広範な観客を持つオーケストラ。放送局の交響楽団としてラジオやテレビで放送されるオーケストラにとって幅広く人気のあるレパートリーを聞かせるということはとても重要です。ドイツ後期ロマン派に固執するのは間違いだと思うのです。私たちの観客はもっと他の曲も望みますし、その価値がある観客でもあります。私たちは常にバランスの取れたプログラムを提供する必要があり、ドイツ後期ロマン派が中心になりますが、他のレパートリーも取り組んでいきます。幸運なことに音楽はとても豊穣で、素晴らしい曲には事欠きません。お客様が愛してくれる曲もたくさんありますから
フランチェスカ・デゴ氏 インタビュー
(パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番について)
コンクール以来、かれこれ13年間この曲を弾き続けていることになります。この曲にはとても愛着があり、私の代表する曲だと思っています。N響との初共演で演奏できるのは幸せです。
パガニーニが40年間愛用した楽器が、1742年製グァルネリ・デル・ジェス「イル・カンノーネ(大砲)」です。デゴはかつてこのガキで演奏する機会に恵まれました。
(パガニーニの愛器「イル・カンノーネ」)
バイオリニストの王が使っていた楽器を弾くのは信じがたい感動です。楽器には彼の手やあごをのせた痕跡が残っていたり、小さな傷なども修復されることなく、当時のまま残っていました。その感動たるや、まさに強烈なものです。彼が作曲したときに聞いていた音なのです。パガニーニは40年間使っていたそうです。彼の功績、音楽のすべてを「イル・カンノーネ」で成し遂げたということですよね。彼のことを語るうえで最も身近なものということです。その感動があまりにも強すぎて、初めて楽器を渡されたときには、座り込んでしまい涙がでました。本当に。
(パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番について)
パガニーニを知り、愛するためには、イタリア・オペラ、特にロッシーニを愛することが必要だと思っています。ロッシーニは「パガニーニがオペラを作曲していたら僕らはみんな失業だ」と語っていました。パガニーニがイタリア式の旋律と歌心をたくみに取り入れていたかを示すものです。のちにベルカントと呼ばれました。第1番の後半は、私はその先を行っているのではないかと思います。その後のヴェルディに見られるようなある種のドラマ性に到達しているのではないかと。あの暗く陰鬱な色彩がすでにあるのです。非常に劇的迫力がありオペラ的な曲でこの点も考慮すべきだと思っています。バイオリンの演奏ではなく声楽に着想を得る方がよいのではと思うのです。この曲の演奏は曲芸ではなく本物の舞台なのです。パガニーニの演奏は見事だったに違いありません。私も見てみたかったです。パガニーニは偉大なる劇場人でしたから。ですから、ぜひ劇場のオペラ作品のようにこの曲を聞いてみてください。
ファビオ・ルイージ氏 インタビュー
次はチャイコフスキー交響曲第5番です。
かつてルイージはロシア語に精通してないのでまだロシア音楽には挑戦していないと語っていました。
(ロシア音楽の取り組み)
時間も経て私も成熟し、ロシア音楽も手がけるようになりました。ロシア音楽はやはり非常に豊穣で驚くべき美しさを備えています。ロシア音楽をより身近に感じています。実はロシア語も少し学びました。妻がロシア人なのでいろいろと助言をしてくれますし、ロシア音楽に請求に取り組むのではなく、非常に慎重に当たっています。20年前とは全く違い、チャイコフスキーは今とてもしっくりきます。
ルイージはドイツ語・英語・フランス語など多くの言語を使います。しかし、音楽と言葉は一体であるという考え方については独自の意見を持っています。
(音楽と言語)
賛成する部分もありますが、一概にそうとは言えない部分もあるでしょう。音楽は自ら語りかけるものです。言語が文化を知ることは大切ですが、でも、何よりも必要なことというわけではありません。一番大切なのは感受性で、知識や知性を超えて音楽が伝えようとする様々な感情を感知できることです。音楽は知性ではなく、感情の現象です。音楽は私たちの感情を刺激するのです。言葉はいらず、音楽は説明なしで、私たちを一つの世界に入り込ませてくれるのです。
(チャイコフスキー交響曲第5番)
チャイコフスキーの素晴らしさは、精神性の深さと非常に自伝的であることです。彼という人間が抱える問題が第5番と第6番に映し出されています。第5番は悲壮感や絶望のモチーフがあり、そうした感情が驚くほど巧みに表現されています。この作品は彼の人生そのもの。難解な作曲家ではなく自らの苦しみを物語る作曲家です。語るのは私の物語でも、私の解釈でもなく、ただ音楽の中にあるものを明らかにします。希望があるとはいいがたい交響曲ですが、希望が顔を出す瞬間はあります。例えば第3モチーフは優しさや優美さ、そして、ほほえみのモチーフです。ですが、全体的には非常に悲しい交響曲だと思います。つまり大いなる絶望の交響曲です。
個人的に確認した奏者
コンマス 篠崎史紀
チェロ 辻本 玲
フルート 甲斐雅之
オーボエ 青山聖樹
ファゴット 水谷上総
クラリネット 伊藤 圭/山根孝司
ホルン 勝俣 泰/木川博史/野見山和子
トランペット 菊本和昭
感想
パガニーニ:バイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品6
第1楽章は思っていたよりもずっと“古典的”な印象を受けました。
パガニーニの協奏曲って聞いたことがなく、パガニーニという印象から、華やかで技巧的なイメージだったのですが、オーケストラの響きがモーツァルトっぽいなと思いました。
そんな中で、ソリストのフランチェスカ・デゴさんのバイオリンは、冒頭の一音から一気に引き込まれました。艶やかで光沢のある響き、低音では豊かに実りを湛えるような温かみ、高音では鮮やかな彩りを放つきらめきを感じます。ちょっと高音がくわーっと来すぎな気もしますが、それはそれでドキドキしますね。
第2楽章では古典的というイメージはなくなって、少しドラマティックになった気がします。
第3楽章では、また「古典的」な印象を感じ、でもヴァイオリンにはドラマティックで、モーツァルトではないけど、メンデルスゾーンでもない……絶妙な気分になりました。でも、きっと、技巧はすごいんでしょうね。バイオリンはあまり詳しくありませんが、高音の重音とかはすごい難しそう……。
そして完全に余談なのですが…「グァルネリ」と聞くと、どうしても昔愛読していた藤本ひとみさんのコバルト文庫「マリナシリーズ」を思い出してしまいます。ストラディバリだったか、グァルネリだったか、あるいはアマティだったか──正確には忘れてしまったのですが(笑)、あの頃は「ヴァイオリンの名器」という言葉にいちいち胸をときめかせていたなぁ…と、つい懐かしい気持ちになりました。
チャイコフスキー:交響曲第5番
第1楽章
私の中にインプットされているイメージよりも、ルイージの指揮はゆったりと始まりました。緩急の対比が劇的で、特に優しい部分はとことん優しく、美しく、ゆったりと優雅に歌い上げられます。音の処理も柔らかく、まるで“優しい時代の記憶”をさまよっているかのようだと感じました。
ホ短調とされていますが、中間部は長調で美しく、最後の最後で、急に絶望感が訪れるのも印象的でした。
第2楽章
ここはやはりホルン・ソロが聴きどころ。そして寄り添うクラリネット、さらに受け継ぐオーボエへと展開する流れが、本当に美しい場面です。今回のホルン・ソロも素晴らしく、柔らかなビブラートにも聴こえました(震えだったのかもしれませんが)。残念ながら奏者のお名前は調べてもわかりませんでした。
ソロの後にはしばらく苦しげな音もあったので、少々それが気になったかなです。オーボエもまたこの時期のN響らしい音色で、大好きです。
第3楽章
優美で優雅なワルツ。チャイコフスキーらしい洒脱さに、うっとりと浸れます。そしてファゴット……やっぱり水谷さんの音色は色っぽい!響きの温かさと艶が絶妙で、毎回惚れ惚れしてしまいます。
第4楽章
やはり盛り上がりは圧巻。金管のギラギラとした輝きが気持ちよく響きます。少し「おや?」と思う場面(ホルン高音にハラハラ…)もありましたが、フィナーレへ向かう弦の重厚さ、そしてトランペットの格好よさには鳥肌もの。最後のトランペットとホルンのぶつかり合い(?)には毎回しびれます。今回も見事でした。
フランチェスカ・デゴさんのパガニーニ:バイオリン協奏曲第1番が聴けるアルバム
コンサートα
NHK交響楽団 第1858回定期公演
マーラー:交響曲第1番「巨人」第1楽章
指揮:ファビオ・ルイージ
管弦楽:NHK交響楽団
2017年4月15日(土) NHKホール
感想
茂木さんのオーボエも好きよ。そして、この冒頭のホルンのメロディ……福川さんと勝俣さんが映ってたけど、なんとも豊かな音。その後のホルンも素晴らしかったなぁ。やっぱりマーラー大好きだ。すべてのマーラーの交響曲を生で聴きたいと思いました。
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